あの日あの時あの場所で?

復帰!(゚┏д┓゚)ノシ
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乾いたままで。10

 首筋に当てられた唇はゆっくりと上がり、最後には私の唇にまでたどり着いて何度か重ね合う。その間に私の腰に回された手は、背中のボタンを片手で器用に外していく。一つ一つボタンが外されて、はだけていく背中を、それとは逆の手がゆっくりとなぞる。くすぐったくなり、顔を上げて身をよじった時に、上半身が腕とサポーターを残してあらわになった。
「・・あ」法衣を脱いだ時にした自分の体臭に恥ずかしさを覚た私は、サポーターを外そうと上げ始めていた騎士の胸をそっと押すと「ごめん、シャワーだけ浴びてくる」と言った「臭うでしょ」
 騎士は両手で胸を押している私の手を片方だけ取ると「いや・・」甲に軽く唇を当てて「気にしないよ」と答える。
「だめ」
 私が気にするんだとばかりにそう言ってベッドから降りると、上半身だけはだけた法衣を全部脱ぎ、下着姿のまま法衣を椅子にかける。立ち上がった拍子に揺れた視界に少しふらつきはしたが、シャワーだけでも浴びないとまずい。今朝から入ってないし。
 大丈夫?と聞こえる声を背に、出入り口の付近にあるもうひとつの扉を開くと、待っててと騎士に答えてから扉を閉めた。中は真っ暗で何も見えないが、仄かに光る灯りの光量を大きくする。
中には赤茶けた鉄製の蛇口が見える。後は洗面台とトイレ、仕切りのカーテンの向こうに鉄製の浴槽が。あまり高くは無さそうな物達を見て、アイン産かと勝手に決め付けた。蛇口を捻ると、きぃと音がして水が出てきた。少し冷たかったが、まぁいいかとそのままにしておくと、下着を外しはじめる。サポーターを脱ぐ時に背伸びをするクセがあり、酔っていたのと合間って扉に頭をぶつけた。こつんではなくて、がつっ、だった。頭に残る痛みをこらえて脱いだショーツと共に、下着を洗面台の端に丸めて置くと、浴槽に入ってからカーテンを閉める。足元にかかる水の冷たさに辟易しながら、髪を少し丸め、水にかからない程度に結い上げた。少しそのままの体勢で流れ出る水を凝視していたが、気合を入れて背中から浴びてみる。いっ、と声が出たが、まぁ我慢できない程じゃなかった。背中に感じる水が体に馴染んでから、正面に水を浴びるよう体の向きを変える。ふと、石鹸がないかカーテンを少し開いて見てみたがどこにもない。更にまずい事に、タオルすらなかった。まぁいいかとそのまま手だけで体を擦る。蒸れていそうなところだけだけど、やらないよりはいいだろう。
 最後に顔を洗うと、水を止めてカーテンを開ける。水が滴るのが分かったが、騎士を呼ぶにしても扉を開いてからだった。
 申し訳程度に両手だけ振って水滴を飛ばすと、浴槽から出て扉を開く。
 扉から少しだけ顔を出して、タオルーと叫んだ私に、あははと笑いながら「すぐ持っていく」と返答が聞こえた。
 はい、という声と共に差し出されたタオルを、少しだけ開いた扉から受け取る。何故か扉を開こうとした馬鹿騎士に、「まって」と強めに断ると、さっと体を拭いてからタオルで体を隠す。小さめのタオルだったらしく、前しか隠せてないような気がするけどまぁいい。灯りを最初の設定に戻してから下着を取ると、扉を開いて外に出た。
「ごめんお待たせ」
 いつの間にかベッドに座っていた騎士は、鎧やチェインメイルを外して上半身が裸になっていた。私はベッドに近寄ると「シャワー浴びる?」と尋ねてみる。
「下に行く前にもう入ったから」と、騎士は笑いながら言うと、立ち上がって私の体を抱きしめる。
 タオルで前を隠して抱くように持っていた私は、促されるままベッドに座らされた。いつの間にか取られていたタオルは床の上に落ちていたが、気になったのは私だけだろうなと思う。横に座った騎士が、唇にキスをしながらゆっくりと倒される。
 背に回った手を前に持ってきて、乳房をなぞると優しく掴まれた。惜しまず重ね合う唇は騎士の方から離され、今度はゆっくりと下にさがると、乳房に唇を這わせて愛撫される。私は騎士の頭を自分の胸に押し付けるように、強く、抱きしめた。白くなれるよう願って。

「・・っ」と私の上で果てた騎士は、最後に口付けをするかのように顔を寄せてきた。目を閉じて近寄らせてくるその顔を、覚めた目で見た私は唇を重ねる。
 それで満足したのか、私の上から横に移動したのを確認してから、私はベッドから立ち上がった。騎士は気にした風もなくそのまま横になっていると、私がタバコを探している少しの間に寝息が聞こえてきた。
 こう暗くては見つけられないと諦めて、床に落ちたタオルを拾い上げると、またシャワーを浴びに向かった。何処か乾いている様な感情が沸いてきた私は、さっき飲まなかった水の事を思い出す。
つい口を割って出てきたのは、喉渇いたなという言葉だった。
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by factfinder | 2006-05-01 00:10 |  

乾いたままで。9

「それでね」私は笑いながら続ける「支援が切れたぞって大騒ぎ」
 今日初めて組んだ様な人の話をきっかけに、私とその騎士はあれから一時間程会話していた。何杯飲んだか忘れてしまったカクテルのせいか、はじめの不機嫌さは何処かへ行ってしまっていた。手に取ったグラスを傾けると、もう空になってしまっている事に気がついて、同じやつをーと頼んでみたがマスターが見つからない。
「へぇ」騎士も笑いながら「確信犯だった?」と合いの手を入れる。
「いいや」と笑いながら答えると、辺りを見渡す。いつの間にかお客は私達だけになっているみたいで誰もいなくなっていた。テーブル席の方はもう片付けられていて、テーブルの上に椅子が乗せられている。灯りも所々切られているのを見ると、どうも閉店間近みたいだ。
 周囲をキョロキョロと見渡していると、近寄ってきた女中さんに声をかけられる。
「そろそろ食堂の方は閉めさせてもらってよろしいでしょうか?」
そういうと頭を下げた女中に「あ、はーい」と私は答えると立てかけていた杖を取る「いくらですー?」と尋ねると、騎士が「俺が出すよ」と言ってきた。
「え?」と呆気に取られたように騎士を見ながら「ありがと」と付け加えた。
「面白かったしね」騎士は女中にゼニーを渡す。いくらだったのか聞こえなかったけど、結構高いカクテルを何杯も飲んだ事に不安を覚える。覚えたが、まいっかと流したのはそれから数秒後の事だった。酔っている事だけは実感できる。
「これからどうする?」ゼニーを払い終わったのか、こちらに近寄ると、座る時に邪魔だったのか、外していた盾を腰につけながらそう聞いてきた。
「んー。宿探しかなー」杖にしがみ付きながらそう答えたが、まともに探せる自信がなかった。立ち上がった拍子に急に酔いがまわってきたのかな。もうこの宿でいっか、などと考えてると。
「そっか。俺さ、ここで部屋をもうとってあるんだけど」そこで区切ると、顔を上げて笑顔で続けた「上でもう少し話さない?酔い覚ましも兼ねてさ」
 それを聞いて少し考え込むように俯く。脳裏を過ぎるのは・・。
「・・そうですね」と私は答えた。

 部屋までの道程がグラストヘイム2Fと同じくらい難易度の高い行為だと思ったのは、コレが何度目なのだろうか。時々騎士に支えられながら、普段は緩やかだろう階段をふらふらと上がっていく。アスムプティオのある今は、グラストヘイム2Fよりも難易度が高いかもしれなかった。
「大丈夫?」騎士が、よろめく私の腰を支えながら気遣わしげに聞いてくる。
「大丈夫」少しその段で立ち止まって俯いた私に、もう少しだよと騎士は促す。
 やっとの事で階段を上りきると、部屋は本当にすぐそこにあったみたいで、かぎを開けるからと手摺りを持たされる。今度は手摺りに支えられながら、1Fのロビーを眺めた。2Fの廊下は、片方が吹き抜けになっていて、出入り口がこの位置からは真正面に見える。丁度出入り口の鍵をかけに来たのか、さっきは姿の見えなかったマスターが食堂の方から歩いてくるところだった。
「さ、こっち」
マスターを眺めていた私は、後ろからかかった騎士の声を聞くと「喉、かわいたなぁ」と呟く。
「わかったわかった」と苦笑いしながら私の腰を支えると、ドアの開いた部屋に促された。
部屋に入ると、先ず目に入ったのが大きな槍だった。次はベッド。小さな丸い机に、椅子がひとつ。あと右手の方にドアがある。
 ふらふらと部屋に入ると、少し古そうなベッドに腰を下ろした。見た目より柔らかかったベッドに腰掛けた事で、少しの間平衡感覚がなくなる。
 揺れる視界の中で、騎士は盾を腰から外すと「じゃあ、お水貰ってくるから」とドアの外に出て行った。
 ぼーっとしているといつの間にか頭が後ろに行き、視線はそれにつれてドアから天井へと流れる。ベッドから足を出したまま横になった私は、まぁこの程度で済んでよかった、と思う事にする。眠くはないが火照った顔が熱くて、冷たいシーツが心地よく、私は顔を埋めた。何をするでもなくごろごろして、時々あーとかうーとか唸っていると「ご機嫌だね」とドアの方から聞こえてきた。声のした方に目をやると、お盆の上に水差しとコップを乗せて、騎士が部屋に戻ってきたようだった。
「はいこれ」と机の上にお盆を置いた後、コップを私に手渡そうと差し出す。けど、受け取らなかった私を見ると、苦笑いしながら寝転がったままの私の手にコップを握らせる。
「気持ち悪い?」
「んー少し」視線を隠すようにコップを持つ手で顔を隠し、少しの間横になったままでいた。
「そうだ、その騎士最後はどうしたの?」椅子に腰掛けた様な音がした後、騎士はさっきの続きを聞いてきた。
 記憶をたどりながら体を起こす。横になった時にはだけたのだろう裾を直すとそれに答える。
「・・その少し後に」そう言いながらコップを差し出すと水を注いでくれた「やっぱり先行してモンスターかき集めて気絶してた」
「なんだそれ」と騎士は笑う。その時の事はよく覚えているが、最後の最後までよく分からない人だった。
「自分は逃げた?」
「遠かったから余裕だった」と笑ってそう答えると、貰った水を口に運ぶ前に顔に当てた。少しそのままの格好でいると、ふらついてコップから水がこぼれる。
「あ」と私が言う間に、騎士がタオルを持ってきてくれていた。私に手渡すと、隣に腰掛ける。
私は首筋に零れた水を拭くと「水でよかった」と呟く。
「そうだね」と騎士はそれに答えると「明日までには乾くよ」と私の顔に触れ、拭いたばかりの首筋にキスをした。
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by factfinder | 2006-05-01 00:09 |  

乾いたままで。8

「僕、エルいらないです」頬をかきながら「青石とか色々使わせたから」とレッティがのたまい出したのは、あれから更に1時間程狩った後の清算時にだった。
 はいはいとでも言うように私は手を振ると、売り払った収集品とめぼしいプチレアを適当に二人分に分ける。エルが5個とオリが1個。後はアリスが落としたエプロンとか忠誠の証など。
 この調子だと一週間で煙管には届かないなぁと考えながら、エルニウム3個とエルニウム2個プラスその他に分け、収集品を売ったお金を半分にして、少し色を付けてから後者をレッティに手渡した。
 どう見ても、受け取りませんという態度をとっていたレッティを少しの間睨み続けていると、何故か上半身を反らして眼を背ける。
「・・・あ、ありがとうございます」
 最後にはお礼を言って受け取る姿がどうにも笑いを誘う。我慢することなく笑い出すと、レッティもつられて笑い始めた。ひとしきり笑い終わると、私は立ち上がって服の皺を伸ばす。それじゃと言おうとしたら。
「あ、あの!」
 いつものように拳を握って呼びかけられた私は、座ったまま妙に力んだレッティに顔を向ける。
「はい?」
「えっと」
「何でしょうか?」正直に言うと、何を言われるか想像はついていた。我慢して次の言葉を待つ。
 急に立ち上がったレッティは「よ、よかったら明日も一緒に狩り行きませんか?」と言ってきた。
 五割ぐらいの確率で、予想とは違った言葉を発するレッティについ笑いがこぼれる。私はてっきり・・。
 少し間を空けてから、笑顔でいいですよと答えた。
「ホントですか?」嬉しそうに笑うと「そ、それじゃ明日のいつ頃にしましょうか?」今度は腕を組んで悩みはじめる。
「いつでもいいですけど」表情のころころかわるヘンテコなハンターに気を取られ、考えもせず答えてしまう。言ってから、お昼過ぎと言えばよかったと後悔した。
「それじゃあ今日と同じ時間なら大丈夫ですかね?」
「はぁ」丁度良かった「では明日の夕方前くらいに」そういうと私は手を振ってその場を後にした。
「また明日!」
 後ろから聞こえるレッティの声を、相手に見えない様笑顔で受け取ると、今日の収入を考えはじめた。
 騎士団2時間で250k前後って所か・・。エルが安くなってきてるから、収入が半分になっちゃったなぁ。となると、明日はもう少し多めに狩りに行かないと全然駄目かもしれない。出るかでないか分からないレアに頼るべきじゃないしねー・・。
 不意にいい匂いがして顔をそちらに向ける。
「・・ご飯食べていこ」
 開かれたドアから漂うご飯の匂いに誘われて、ふらふらと店内へ入った。
 いらっしゃいませーといういつもながらのセリフと共に若い女中さんがこちらに近寄ってくる。
「お泊りですか?それともお食事ですか?」どうも宿屋と料理屋の両方を経営している店らしい。
 どうするか迷った挙句「とりあえずはご飯だけで」と答える。
「ありがとうございます」と笑顔で言われ、どうぞこちらですと促されるままついていく。ドアをくぐってからすぐ右側の方に、テーブル席が四卓とカウンター席が三席あった。雰囲気は料理屋というより酒場に近い感じを受ける。もう夕ご飯には少し遅い時間だったのか、私以外にお客は3人だった。
 お好きな席へどうぞと促された私は、一人でテーブル席を占領するのもどうかと思い、カウンター席へ腰をおろした。
 目の前にいる料理人と呼ばれるよりマスターと呼ばれる事が多そうな人に「何にするかね?」ときかれけど、手近な所にお品書きがなかったものだから、何があるんですかと尋ね返した。
「あんまり凝った物は出来ないけどね、言われたら大体の物は作るよ」
 そう言われても何が食べたいという訳でもなかった私は、はぁとだけ答えると少し考え込む。麺類が食べたいかなと思い至り「スパゲティで得意な物を」と頼んだ。
「はいよ」そう言うと、マスターはなにやら準備を始めるが、ふと思い出したように顔を上げると「飲み物は?」と聞いてきた。やっぱり酒場の方が似合う顔だと思う。
 少し考え込み「ヴァーミリオンザビーチで」と答えると、はいよと素っ気無い返事が返ってきた。
 あまり待つ事もなく飲み物はすぐに出てきた。私を案内した女中さんとは服装の違う人が、綺麗な朱色の液体の入ったグラスを「お待たせしました」と私の前に置く。
 すぐには手に取らず、その液体を見るともなく見ていると、今日一日の出来事を思い出した。妙なハンターの事や綺麗な煙管の事。起き抜けに見た変な夢。ただ、何故か楽しくなった私は、目の前にある朱色のカクテルを手に取り飲みはじめた。
 どうにも調子が狂うあのハンターと、明日はどこに行こうか、ご飯くらいは誘ってくれても良かったんじゃないか、などと考えていると、手に持ったグラスはもう空になっている。明日の事も考えて、今日は一杯で止めておこう。
 と、不意に後ろから声をかけられた。
「先程はどうも」
 いい気分を邪魔する鼻にかかった少し高めのハスキーボイスを、振り返る事もなく無視をした。聞いた事のあるようなないような声。向こうはめげずに私の隣に来ると「隣いいかな」と座り始める。
 いいとも言ってないけど、三席しかないカウンターの真ん中に陣取っていて、テーブルに行け、とも言えないから、そこも流して空になったグラスをカウンターに置いた。
「お昼の時と一緒でつれないなぁ」こちらを向いて笑いながらそう言うと「パンランズを」と今度はマスターに告げる。
「・・よくそんな物飲めますね」と私は呟くと、初めてその人の顔を見た。あぁ、お昼の騎士か。
「そうですか?」と不思議そうな顔をすると、こちらに笑顔を向けて「結構おいしいんですがね」と言った。
 私はそれには答えず、お昼の出来事を謝る。
「さっきはごめんなさいね」
「いや、こちらも無遠慮だったかな」
「はぁ」と答えるが、それは間違いないと思ったけど口には出さず「そんな事は」と続ける。
 すると、急に「ならこれは受け取ってくれますよね」と笑顔になったその騎士は、マスターに向かってこう言った「トロピカル・ソグラドをこの方に」
 先程までと変わる事もなく、はいよとだけ答えると、私の目の前に液体ではなく食べ物を置いた。見た限り、ほうれん草とソーセージと鷹の爪の輪切りが乗っかったペペロンチーノだった。コレが得意なのかと感心していると、いつの間にか来ていた女中さんからフォークとスプーンを受け取る。
「ご飯まだだったんだ」と、黙々と食べていた私に騎士が話しかけてきた。
 すぐには答えず、口の中にある物を嚥下してから、はいとだけ言った。ピリ辛だけど結構おいしい。
 少しの間は「はぁ」とか「はい」とかだけで会話していると、向こうも会話の種が尽きたのか無言の時間が少しだけ続いた。黙ってる分には美形なんだよなと思う。
 黙々と食べ続け、完食した私は「ご馳走さま」とマスターにお皿を手渡す。辛めの料理なので喉が渇いてしまった。騎士がくれたカクテルも飲み干してしまっていたので、仕方なくまた頼む事にして、「同じやつを」とマスターに注文した。
「そうだ、あれから何してたの?」
 さっきまで黙ってこちらを見ていた騎士が、会話の種を思いついたのか話しかけてきた。すぐには答えずに、マスターから橙色のカクテルを受け取ってから、こう言った。
「妙な新人ハンターと騎士団にね」
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by factfinder | 2006-05-01 00:08 |  

乾いたままで。7

 自分がアスムプティオを切れさせたからとか、アスムプティオよりセイフティーウォールを先に詠唱すべきだったとか、自分が悪かった所も色々思いついたが、何故か頭にきてしまい大声を出してしまっていた。
 私が少し反省している間に、レッティは肩を落としてシュンとしていたが、意を決したように顔を上げる。
「もし・・、危ないと思ったら飛んでくださいね」と言い出した。
「何を・・!」私は顔を寄せると、杖を放り投げて胸元を掴み「あんたがあんな状況で気絶するとテレポを詠唱する事も出来ないの!」と怒鳴る。
「え?」唖然とするレッティ。
「巧い人なら白POTを飲みながらいけるかも知れないけど、あいにくと私はそんなに巧くはないんだ!」
 少しの間、私が一方的に睨んだ体勢のままで時間が経つ。レッティが何か言おうと行動を起こしたのを見計らって、私は掴んでいたシャツの胸元を離した。首を左右に振りながら呟く。
「ごめんなさい。怒鳴るような事でもなかったですね」
「え?」意をそがれてか、また間抜けな声を出したレッティから視線を外す。
「聞き流してくれても構いません。でも、打ち合わせと違う事をされて、倒せる敵が倒せなかったりしたら、やっぱり悔しいじゃないですか」掴みかかった時に勢いで放ってしまった杖を拾おうと屈みこむ。続けて「それに」と言おうとしたが。
「あ、あの!ごめんなさい!」頭を勢いよく下げてレッティが謝った。急な謝罪にビックリしたけど、何がですか?と立ち上がりながら背後にいるレッティに尋ねた。
「ええっと」少し考えて「うんざりさせた事に対して・・です」
想像した中に入っていなかった回答に戸惑った私が、はい?と聞き返す前にレッティは続けた。
「僕、頑張ります。アンクルも練習します」
「はぁ」
「だから・・、うんざりした様な言い方やめてください・・。」顔だけ振り返り、肩越しにレッティを見ると、うなだれた様に肩を落とした姿が目に入った。
 その姿を少しだけ見つめた後、何故かいたたまれなくなり、レッティのほうに体を向けると、気をつけるの?と尋ねてみる。
「は、はい!」そう返事をすると、またごめんなさい。
 普通怒られたら無視か笑うかのどちらかな人にしか会っていなかった私は「あのさ、・・怒られても平気なの?」とつい言葉に出ていた「普通さ、一回しか組んだ事の無いような人に怒られても、受け流すもんですよ」
 「え、でも、怒ってくれるって事は、巧く狩れるように手伝ってくれてるって事じゃ?」と言うと、下げた肩を心持ち上がる。
「こっちがそのつもりでも、そう受け取れないもんです」だから普段は怒鳴ったりしない。危ないと思ったら本当にすぐ逃げる。はずだった。のに。
「そんなもんですか」と顔が呆気に取られた様になる。
「そんなもんですよ」私も同じ様な顔をしてレッティに視線を向けた。
 ぷっとお互いに吹き出すと、後方から聞こえてきた甲冑の足音に私は体を反転させる。
そのままで「マゾヒストなんだ」とからかってやる。視線は、音のする方向から自然に後ろへ動いた。顔だけでレッティを窺う。
「ち、違います!」後ろの方で恥ずかしそうにしているレッティを、肩越しに確認すると前を向く。何故か笑いが込み上げてきた。まぁいい。もう少しで一時間だけど、もう三十分くらい妙なハンターに付き合ってもいいかな。
「さっきみたいな事しないのよ!」そう叫ぶと、向こうから来た赤い甲冑にレックスエーテルナを唱えた。
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by factfinder | 2006-05-01 00:07 |  

乾いたままで。6

 放たれた矢を、ニューマに隠れた私は危なげなく避ける。赤い鎧に宿った弓兵の怨念、レイドリックアーチャーにレックスエーテルナを唱えると、レッティが一呼吸の後にダブルストレイフィングを叩き込んだ。刹那の差で撃ち出された二対の矢は、レイドリックアーチャーを貫き、怨念を霧散させる。
 カシャンという音と共に、崩れ落ちた赤い鎧の残骸。私はソレに近寄ると屈み込み、何かアイテムが落ちてないか物色した。あまり苦もなく、鼠色の小さな欠片を見つける。
「あ、これなら・・さっきのとあわせると、売れるくらいのエルニウムにはなるかな」
 そういうと重さを確認しながら、腰につけたポシェットしまいこむ。後は、怨念の触媒らしいブリガンと呼ばれる鉱石も、拾い上げて一緒にしまった。
 いくら見た目が変わる事なく沢山入れる事が出来るといっても、あまり入れすぎるとあふれて出てくるし、重量はそのままだから重い物は重いので気をつけないと。などと考えつつ、辺りを忙しなく見続けるレッティを視界におさめた。
 騎士団に来て三十分程経過したが、この自称PT初心者のハンターは、狩りの腕は確かだった。通常攻撃だけをとっても十分強いが、SPと相談しつつダブルストレイフィングを交ぜてくれるから交戦が楽だし、交ぜるタイミングも完璧とは言わないけどそれなりになってきて良かった。
 狩り初めは、私の使うスキルの意味をあまり理解できていなかったらしく、レックスエーテルナの意味や有効活用のしかたを教えたり、マグニフィカートの効果を教えてあげたりとしてみた。そこは初心者と謙遜するだけはあってか、突っぱねたりはせず、素直に聞き入れてくれてやりやすかったのだけど。
「今のどんな感じでしたか?」私の視線に気がついたのか、頭をかきながら笑いかけてきた。
「はぁ」と答えると、立ち上がり「良かったんじゃないですかね」と笑った。
「そ、そうですか!」と、弓を持つ手でギュッと拳を握り締める。本当に嬉しそうに笑うレッティに、そうですよと、また笑いかけた。
「後はレアでも出ればいいんですけどね」私が歩き出すと、レッティもその後を追ってついてくる。
 狩りの前にした打ち合わせで、私が前衛になって敵をひきつけ、その間にレッティが撃ち倒すと決めあった。初めは私が前に出ることに難色を示したレッティだったが、耐久力の話や、Agi型のレッティが囲まれた時にどのくらい避けきれるか、などとつらつらと説明した結果、最終的に向こうが折れた。今時こんな話を打ち合わせでするなど思ってもみなかったけど、昔に戻った気分になれて、楽しくなかったなどとはいえない。
「そうですねー」
 少しだけ歩いた後「そう言えば」私は急に振り返ると、レッティの方を向き「いつもどこで狩ってるんですか?」と聞いてみた。
 すぐ後ろをついてきていたらしく、急に振り向いた私にビックリしたのか、あまり楽な体勢とはいえない形で固まったレッティは、ええと、とどもりながら答えてきた。
「ス、スティングとかですかね」そういうと一歩分だけ後ろへ飛びのき「時計2Fとかも行きます」と続けた。
 飛びのいた事を訝しく思ったけど、そこは無視して「ソロで?」と尋ね、ブレッシングと速度増加を重ね掛けした。
「ソロがほとんどですけど、たまに友達と」
「はぁ」
「音瀬さんはいつも騎士団に?」レッティの言葉を合図にか、私の後方から深遠の騎士が現れた。
「下がって!」と、私は怒鳴ると、足元にセイフティーウォールを発生させ、効果のなくなったアスムプティオを自分にかけなおす。レッティはというと、私の言葉を素直に聞き入れて、少し遠めに位置取り、深遠の騎士を狙って弓を構えている。
「まだ撃っちゃだめなんですよね」とレッティ。
「はぁ」とも「ええ」とも答えずに、深遠が私を目掛けて攻撃したのをセイフティーウォール越しに確認すると、レックスエーテルナを唱えた。レッティはちゃんと覚えていたみたいで、レックスエーテルナが発動したのを見届けたのを合図に、ダブルストレイフィングを雨のように撃ち放つ。
 深遠の騎士は、漆黒の外套を影のように揺らめかせながら降り注ぐ矢の雨を避わすが、間に合いきれず、いくつもの矢が突き刺さる。苦し紛れか何やら詠唱を始めた。
「カリツが!」
 その叫びを聞く前に、私はセイフティーウォールを背後に発生させ、一歩後ろに下がる。新しく発生させたセイフティーウォールに乗ると、レックスエーテルナを深遠の騎士に唱えた。
 深遠の騎士の詠唱が終わると、カーリッツバーグが二対召還され、私の周囲を取り囲む。
 セイフティーウォールに阻まれて攻撃は当たらない。けど、桃色の防御壁は、相手の攻撃が重なる毎に色合いを薄くしていく。また後ろにセイフティーウォールを・・と思った矢先に。
「音瀬さん!」叫び声と共に、チャージアローが私の真横を通り過ぎていく。吹き飛ばした相手は。
「血騎士・・。」
黒光りする巨大な甲冑を確認した私は呆然と呟くと、痛みと共に効果を失ったセイフティーウォールに気がつき、一歩後ろではなく、足元にセイフティーウォールを発生させた。まさか血騎士が沸くなんて。
 焦る気持ちがレッティの放ったチャージアローの事を忘れさせてしまい、重症を与えているはずの深遠の騎士を倒すまでは、何とかなるだろうと判断してしまっていた。誤った判断だと気がついたのは、何故か走り来るレッティを見てだ。
「・・・なっ!?」何してるんだと怒鳴るより先に、自分にヒールを唱えた。ブラッディナイトに気を取られすぎてどこからか沸いていたレイドリックアーチャーに気がつけなかった。いつの間にか霧散したセイフティーウォールを掛けなおす事もできず、かと言ってレッティに来るなと叫ぶ事も出来ない。
 レッティはブラッディナイトに近寄ると、続けざまにチャージアローを二度打ち込む。その間に一度切りつけられ、もう既に息が上がっているのがわかる。わかるだけで何も出来ないのが悔しい。
 少し離れたブラッディナイトをそのままにしたレッティは、深遠の騎士目掛けてダブルストレイフィングを叩き込む。
 二度程、計四本の矢を打ち込まれた深遠の騎士は、外套と剣だけを残して床に崩れ落ちる。ソレと同時に、カーリッツバーグ二対も消え失せた。
 その事に安心するより先に「血騎士にアンクルを!」と叫んだ私が見た光景は、ブラッディナイトに後ろから切りつけられたレッティ。アスムが今の間に効果を失ったのか、さっきより出血が酷い。すぐさまヒールを唱え、アスムを詠唱する。けど、ソレより先にセイフティーウォールを唱えるべきだったと後悔した。
 レッティはアンクルスネアを置くのに手間取っていたが、諦めてチャージアローを数度ブラッディナイトに打ち込む。道の奥にある壁にあたる程ブラッディナイトを吹き飛ばすと、漆黒の甲冑はヒュンという音と共にその姿を消した。
 テレポでもしたのかな・・。しかし、危なかった。
 少し遠くの方で私に向かって弓を射るレイドリックアーチャーを一瞥すると、足元にニューマを発生させ、レッティを睨み付けてからレックスエーテルナを唱えた。
「ご、ごめんなさい・・」と謝ったレッティはダブルストレイフィングを撃ち込むと「怒ってます?」と聞いてきた。
 カシャンと音が聞こえると「前に出るなって・・!」と言いながらレッティに近寄り「言ったでしょう!」私は怒鳴る。
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by factfinder | 2006-05-01 00:06 |  

乾いたままで。5

 最終的に、考えをそこに落ち着かせると、職員に頭を下げてから臨時広場へ足を向けた。
 門をくぐり、先程の場所に戻る。私の方が準備は早かったみたいで、あの頼り無さそうなハンターは到着していなかった。私の方が先に準備に行ったからか。
 少しの間は、キョロキョロと辺りを見渡しながら待っていた。あの人・・どんな型なんだろうか。急にあの謙虚な態度が不安に思えてた私は、そんな事をふと思った。鷹メインだったりしたらどうしよう・・、それだったら狩場かえなくちゃな。などと考え込む。
 五分待ったくらいで今日の晩御飯何にしようかと考えていた。待たされている事にイライラし始めたのか、最初に沸いた不安などどこ吹く風で、別の事を努めて考えるようにする。
 十分・・程待ったところで、イライラが限界点に達すると、眼つきがきつくなっていたみたいで、周囲の人に煙たがられているのが分かった。キッと辺りを見渡し、ハンターが来ていない事を確認すると、PT会話で早く準備するように催促する事に決める。PT会話と呼ばれる、PTを組んだ人間同士だけで会話が出来る機能がある。その機能を使って話しかけてみた。
「あの、まだでしょうか?」
 少し待っても返事が無かった。第一声が少し刺々しかったかなと少し反省して、今度は少し優しく・・。
「え?あ!ごめんなさい!」
 私が話すより先に少し遅めの返事が戻ってきた。まさか寝てた?
「それより・・。準備終わりましたかね?」
「あ、はい!今、友人から何がいるか聞いたので、揃えて持って行きますね・・。お待たせして本当にごめんなさい」
「聞いた?」声に出すつもりは無かったのに出てしまっていた。何がいるか確認していたとかだろうけど。
「騎士団ペアなんて初めてなんで、何が必要か友達に聞いてたんです」
「私に聞いて貰えれば教えたのに」
「あ、いえ・・恥ずかしくてつい」
 恥ずかしいってなんだ、とつい言いそうになるが、胸の内だけで堪えた。そうだ、狩は一時間きっかりにしよう。一時間だけ我慢しろと、自分に言い聞かせると、そこで会話は終わらせた。
 少しの間無言の時間が続き「準備できました!今行きますね!」と言ってきたので、はぁとだけ答えた。
 頑張るか・・。としか思えない自分が不幸だ。
 変な事を考えるとため息が出てきて、少し肩を落として悪い空気を吐き出した。
 すると、門の方駆け寄る足音が聞こえてきた。多分ハンターだろう足音に体を向ける。
 案の定さっきの彼で、こちらに来るなり「本当にごめんなさい。」と頭を下げると「お待たせしました。」と言い出した。
 な、んなんだ本当に・・。
 私は体を少し仰け反らして「はぁ」とだけ言うと「それじゃ向こうの方でポタ出しますね」と背を向けて、臨時広場の隅にある木陰の方へと足を向けた。
「あ、待って!」
 急にかけられた声にビックリして後ろを振り返ると、何故だか恥ずかしそうに頭をかきながら、こちらに近寄る姿が眼に入った。
「お、大声出してごめんなさい」
「はぁ」早く本題を言って欲しいのだけど。とは言わずに、辛抱強く次の言葉を待った。
「名前、なんて読むんですか?」
 気が抜けた。
「はい?」と言うと、なぜか慌てて。
「ご、ごめんなさい」と私に向かってまた頭を下げると「アマツ方面で使われてる漢字・・ですっけ?」で言葉をとめた。
 私が答えるところなのかは分からなかったが、とりあえず、「ええ」とだけ相槌を打った。
「良かった、あたってて」
 何故・・か・・、嬉しそうに笑う。
 何かが頭を過ぎった。すぐに消えてしまった何かを探ろうとしたけど、出てこない。
「僕、漢字が読めないんですよ・・」
 少しの間思い出そうと必死になっていた私は、ハンターを無視する形になっていた。
 読めないというのは、胸に付いた聖職者ギルドの登録証を見ていったのだろう。
「あ、あの」と心配そうな顔をして私の様子を伺う。私はというと、その顔を見ていると何故か急に笑いが込み上げてきて、つい吹き出してしまっていた。
 今度はハンターの・・いや、私も胸の登録証に目を向けて名前を確認した。・・レッティ、が呆然とする番だったみたいだ。
 ひとしきり笑うと、私は少しだけ胸を張り「おとせ」とだけ言った。
「おとせ?ですか」硬直の解けたレッティは、私を見てそう呟くと、もう一度おとせと繰り返す。
「違います。お・と・せ。タバコと同じ発音」
「な、なるほど?」
「どうして疑問系なんですか?」少し笑いながら尋ねる。
「違いがよくわかんなくて・・」頭をかきながら、ごめんなさいと続けた。
 名前が読めない人は多い。アマツ限定の漢字など、教授職でもない限り読めないだろう。けど、そんなのいちいち確認してくれる人なんていなかった。そう考えると何故か笑いが込み上げてくる。
「まぁいいです。行きましょうか?」私は笑ったままそう言うと、臨時広場の隅へ向かって歩き始める。
 少し遅れてついてくるレッティが何事かを話しているが、耳には入らない。
 けど、ごめんなさい、が口癖のハンターに、何故か好感を持っている自分に気がついたのは、少したった後でのことだった。
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by factfinder | 2006-05-01 00:05 |  

乾いたままで。4

 少しうつむいて目を閉じているその人の前まで来ると、こんにちはと笑いかけてみた。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
 あれ?無視・・?一分くらいは突っ立っていたように思う。なんなんだ。ええい、もう一度。
「こんにちは」
 返事が無い。もしかしてこの人・・。
 思い至ると、その人の正面でかがみこみ、顔を覗き込む。やっぱり・・。寝てるみたいだ。
「・・あの?こんにちは!」コレが最後だと言わんばかりに、間近で少し声量大きめなあいさつしてみる。と、その人はがばっと顔を上げ、私の方を少しの間凝視した後、何事かのたまいながら後ずさりだした。
「こんにちは」起きてくれた事に少しだけほっとして、私は四度目の挨拶を笑顔でする。けど、その人は後ずさりしたままの体勢で固まっていた。少しの間は我慢してみたけど、やっぱり組むのやめようかなと本気で思案し始めたところでやっと答えが返ってくる。
「こ、こんにちは・・」少し俯いて「あ、の・・何の用でしょうか?」と聞いてきた。
 臨時広場で落ちていてその返答は無いだろうとも思ったけど、口には出さずに「狩り、行きませんか?」とだけ言ってみる。やっぱり返答がもらえたのが少したった後だったのは、この人が寝ぼけているからかもしれなかった。
「あ、え・・、ほんとですか?」何故か嬉しそうだ。
「え、ええ。と言うか、落ちてらっしゃったんじゃ?」落ちるというのは、狩りに誘って下さいと同じ事で、臨時広場で出来た造語だ。
「あー・・。そう言えば」何故か照れくさそうに頭をかきながら「落ちたまま誰も来ないから寝ちゃったんでした」
「はぁ。・・・どのくらい待たれてたんですか?」いつまでも屈んではいられないので立ち上がる。
「朝くらいからかなぁ」少し考えた後に遠い目をして「誰も誘ってくれなくて」と笑いながら言い出した。
 それはご愁傷様でした、とは言わずに大変でしたねとおざなりに答えると、こう続ける。
「で、どうします?行きますか?行きません・・」
「行きます!」私の言葉が終わるよりも早くそう答えてきた。何故か前のめりになって、拳まで握り締めている。
「あ、ありがとう」私は少しだけ体を後ろへそらせて返事をすると、どこに行きましょうかと一応尋ねてみる。私の中では騎士団とは思ってはいたのだけど。
「ど、どこでもいいですけど」何故か急に俯きだしたのを見ても、あまり気には留めない事にする。ま、そっちの方が私にはいいけど、などと思った事は微塵も表情には出さずに、騎士団とかどうですか?と提案してみた。
「いいですけど・・」
「けど?」何か不満でもあるのだろうか。
「実はあんまり他の人と狩る事がなくて・・」
「なくて?」この時点で想像はついたけど、一応最後まで聞いてみることにした。
「上手に狩れないかもしれないです・・けど」
「初心者さん?」の割には装備もそれなりだし、初心者でくくるには結構強そうに見える。けど、と言う事が多い、彼を見た私の素直な感想だった。
「え、ええ」
 頭をかきながら彼も立ち上がる。私は、聞くべきか少し悩んだ後、騎士団用の武器とかありますか?と尋ねてみた。
「友人から借りた物なら」
「なら別に構わないですよ」私は即答すると、PT作りますね、と告げてPT作成申請を出した。
「ペアで構いませんよね」プリとハンタでなら普通に行けるだろうと踏んだ私は、事も無げにそう言った。ら、彼は何故かビックリしたように目を丸くしだした。自信がないのだろうな、と、少し心の中だけで笑う。
 一人でPT名をどうしようかと思案にくれていると、彼は私に何かを言いたそうな顔でオロオロし始めた。私からは何も言わないで観察していると、意を決したように「あ、あのっ・・!」と呼びかけられた。
「はい?」
「ボクみたいなPT初心者でいいんでしょうか?」さっきの様に拳を握り締めて「ハイプリさんなのに」
「はぁ」と答えた後、どう答えるべきか言葉を選ぶ。まさか狩りに行ければ誰でもよかった、などと言ったら、彼の気力が萎えてしまうかもしれなかったから「事前にいっていただければあまり気にしませんよ」と苦笑いで答えた。
PTを作成した後、彼に加入要請を飛ばすと「それじゃお互いに準備してきましょうか」と告げた。私の言葉を聞いているのか聞いていないか、何故だか少しうつろな表情になった彼に、速度増加を唱えてあげてからカプラ職員に会いに行った。後ろの方でありがとうございますと聞こえたが、答える事はせずにそのまま門をくぐる。初心者とかは別にしても、どうにもやり難そうなペア相手に心配が募った。
 一人一人の力では対応しきれない程に敵の力が強力になって、力の見合う者同士が行動を共にする事が奨励されてから、もう何年も経過した。互いに知らない者同士が一時的に協力しあうというのは、奨励当初はとても画期的な策だったらしい。けど、冒険者と呼ばれる職業人種が増加し続けている今は・・。私の目から見ても、あまり好ましい物ではなくなってきた様に思う。大人数で狩りに行くより、少数精鋭で行く方が効率的に優れている為か、少し無理をしてでも少人数で狩りに行く。赤の他人より、一度でも組んだ顔見知りと狩りへ行く。
 行動を共にする上での要職は、既にどこかのPTに組まれ、あぶれ出た人間はそのまま待ち続けるか、一人で狩りに行く事になる。冒険初心者や一部の職業には風当たりの強いものになったのではないか。とは思うものの、私自身がその要職ではあるから、あぶれる事などはほとんど無いし、可哀想だなと見ているだけなのだけど・・。PT初心者だからと、ここまで卑屈な人も珍しいように思えた。
 フラフラと考えながら歩いていると、南門から少し行った所にカプラ職員が見えた。いつもの様に職員を捕まえて、あれやこれやとアイテムを引き出したり、預けたりする。
 カプラ職員とは各自で持ちきれなくなったアイテムを一事的に預かってくれる人の事で、どんなに重い物だろうと、どんなに大量に渡そうと、笑顔で受け取って預かってくれるという不思議な職業の人達の事だ。
 いつもの狩りの時より少し多めに、青石と白Pを引き出すと、装備も騎士団様に整える。まぁどんな事があるにせよ、お金かせがないと・・ね。
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by factfinder | 2006-05-01 00:04 |  

乾いたままで。3

 臨時広場とは、プロンテラの南門を出てすぐの場所にある空き地のことをさす。空き地と言っても囲いが在る訳ではなくて、ただ誰とも無く人が集まり始めたその場所を、臨時広場と呼ぶようになったらしい。
 門の前を横切ろうとすると、衛兵がこちらに向かって手を振る。誰だったか忘れていたけど、笑顔でそれに答えてから門をくぐった。目の前に広がる平原・・ではなくて、人垣。本当に目と鼻の先と言うヤツだ。
 広場を見渡すと色々な職業の人が立ち話をしていたり、狩りの募集をしていたりした。お昼頃とは言ってももう既に夕方に近く、募集している人などあまりいないかと思ったが、以外にもそうでもなかったらしい。
 結構あるな。などと変な感心をしながら少し歩き回り、募集要項を見て回る。
 〟募:棚7F 現:狙占魔聖〟とか〟募:プリさんニブルでも〟〟落:狩 ペアでも臨でも〟などなど。見回るだけで行く気などさらさら無かったから、本当に見ているだけなのだけど。
 「ねぇ一人?」キョロキョロと辺りを見回していたのが暇そうに見えたらしい。誰とも知れないが話しかけられた。「一緒にニブルヘイムに行かない?」
 声のした方を見ると、騎士らしい姿をした男が立っていて、こちらに手を振りながら近寄ってくる。
 「はぁ」と返事をしてからどうしようかと考え込む。あまり狩りに行く気にはなれないな・・。と苦笑いをしつつ相手の方に体を向けた。
「ペアでいいかな?」中々の美青年で、さわやかに笑うと私の正面に立って「どう?」と質問を重ねてくる。私は行くとも言ってないはずなんだけど、とも言えず苦笑を深めた。お金も心許ないし、このまま狩りに行っても全然構わない・・けど。いつもなら適当に相槌を打って、狩りの準備に取り掛かるはずなのに、どうした事か気分が乗らない。
「ねぇ行こうよ」とさりげなく手をつかまれたところで我に返り「ごめんなさい」と告げて、私は街中へと駆け出した。あっ、という言葉に背中を押されるように。
 門をくぐり、少し行ったところの家屋の影で、上がった息を整える。おかしい。今日は本当におかしい。手を握られたくらいで走って逃げるなんて、どうかしてる。宿屋で振り切ったはずの考えがまた沸いて出てきた。どうにも今日は・・。まぁいい。こうなったらタバコ・・でも探そう。
ふらふらとまた路店通りを歩き始める。先ずはさっき諦めた顔馴染みの商人さんから探そうかな。そう決めると、十字路に足を向ける。
雑踏の中左によったり右に寄ったりしながら歩いていると、カプラ前を横切るところで、ふとその商人さんの顔が目に入った。
「あれ?こんにちは」と近寄りながら挨拶をする。
向こうも私に気がついたみたいで「あらー。こんにちは。」とこちらを向いて手招きをしてきた。
「今日はいつもの場所で出さないの?」
「ちょっと蚤市に顔出しててね、場所とられちゃったのよ」
「へぇー」いつものように屈託無く笑うそのおばさんを見て、私も笑い返すと、あ、そうだと続けた。
「タバコあるかな?そろそろ、前に買った分切らしちゃいそうで」ごそごそと財布を出す。
「あぁ、そうそう」それには答えず、今度はおばさんがごそごそと何やらカートを探し出した。「あったあった、タバコ吸いならどうかねと思ったんだけど?」
手に握られていたのはパイプタバコ。銀細工が綺麗な細めのデザインで、パイプタバコというより・・。
「ほら、アマツの人から買ったんだけどね、何て言ったっけ・・」考え込むように頭を傾げる。「あ、そりゃ100kだよ!」けど、辺りの事も見てはいるようだ。
「キセル?」と私は答えると、おばちゃんの近くにかがみこむ。
そうそう、とおばちゃんは答えると、私にキセルを手渡して、どうだいと言うような目で私を見た。
綺麗だなぁ。狐が銀で意匠されてるのかな。木でできた柄の部分にも何やら彫ってあり、握り心地も申し分ない。
少しの間だけ見惚れて「んー、いくら?」と聞いてみた。
「おまけして3Mくらいかね」少し得意げに高額をつけてきた。「それ、本当はもっと高いはずさ」
正直手元にそんなお金は無い。けどこれは・・欲しい。「もう少し安くなんない?」手を合わせて「お願い! 」頭を下げてみた。
「まぁ・・これからも、うちでタバコの葉を買ってくれるってんなら2.5Mにまけたげる」と少し笑って言ってくれた。けど、その額ですらない。
「あー・・ちょっと相談いいかな」と少し頭をかきながらおばちゃんに近寄ると、耳元で「一週間だけ待ってくれない?今ちょっと手持ちが無くて」
「ま、あんたならいいけどね。それ以上は待てないよ?」と腕を組んでニヤリ。
「さっすが!話せるっ」と抱きつくと、おばさんはよしなよと笑いながら言ってきた。
立ち上がると、おばさんに手を振りながら「それじゃ一週間ね」と言って背を向けた。あぁ、待ってるよという言葉を背中で受け取り、懲りずに臨時広場へ向かう。さっきの騎士がいたら連れて行ってもらうか。少し前までの陰鬱な気分はどこかへ行ってしまったようだった。
都合三度目の通過にも、衛兵は驚くことも無く、こちらに手を振ってくるだけだった。誰だかわからないけど。

臨時広場へつくと、周囲を見回して募集要項を確認して回る。なるべく金銭効率のいい狩場で・・と、考えながら歩き始めて、広場の隅の方まで行ってみる事にする。
少しの間に募集は少なくなっていて、さっきまで募集されていた臨時はもう出発しているようだったし、騎士もいなくなっていた。まぁいなかったらいなかったで、全然構わないのだけど。
ふと、どんどん出発していく臨時の中で、さっきも見た募集主が目に留まった。〟落:狩 ペアでも臨でも〟とある。ハンターか。騎士団なら・・いいかも、と思いつつ、その募集主に私は近寄る。
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by factfinder | 2006-05-01 00:03 |  

乾いたままで。2

 想像以上行動未満というヤツで、すぐに故郷へ出発するという訳でもないが、3年以上帰る事がなくても何とも思わなかった私にとっては新鮮な感覚だった。
 多分思うだけで帰りはしないけど。
 そう決め付けると、ドアの横にある貴重品類を身につける。最後に杖を持ってドアを開くと、カーテンの隙間から零れていたような光量ではなく、目の奥を刺激するような光が私を覆った。思わず目を伏せてから、今日もいい天気だな。そう思うと、一階にある受付へと足を運ぶ。宿代払ってなかったはずだし。
 小奇麗な感じの廊下を、階段に向かって歩く。廊下と階段の境目に置いてある花瓶に花がいけてあったけど、何て名前なのかまでは分からなかった。ってどうしたんだろう。こんな事考えること自体どうかしてる。
 廊下の端にある階段を下りていると、布団を抱えた女中さんが前からやってきた。危なげにひょこひょこと階段を上がる十四・五歳のその少女は、手に持った布団の隙間から私を見ると、お邪魔でしたかと告げてきた。
 どうも立ち止まって見ていたらしい私は、「いえ、ごめんなさい」と言うと、少しだけ体を端に寄せてから歩き始める。何なんだ一体・・。どうも自分の行動がおかしくなったように思う。沸いて出た考えを振り切るように、頭を左右に振った。
 階段の先にある受付は少し広めに造られていて、椅子やテーブルが多数あるところを見ると、食堂も兼ねているのかもしれなかったけど、食欲もないので真っ先に受付に座る男の前に歩いていった。
「チェックかい?」髭に白髪と黒髪が混ざった少し年配の男は、そう尋ねながら宿帳らしき物をめくりはじめる。一泊いくらだったか忘れていた私は、財布を出すだけ出して、値段を言われるまで呆然と立っている事にした。
「3号室のお客さん?」そう言うと鼻の頭やら髭を触りだして「もうお金は受け取ってるよ」と言い出した。
 少しの間だけどぼーっとしていたものだから、話の内容が理解出来ずに反応が遅れる。
「・・・あ。昨夜の事あまり覚えてなくて・・。払いましたっけ?」少し戸惑った私は、耳を覆っていた髪を掛けなおすと「ごめんなさい。酔っていたみたいで・・」と続ける。
 私を直視もせず「あぁ、さっき出て行かれた人から貰ったんだよ」と答えると、手を振りながら、もういいからとでもいう様な仕草をする。
「はぁ」
 そう返事をした私は財布をしまい、立てかけていた杖を手に取る。珍しく宿代を払っていくヤツではあった訳だ。   
 受付の男から背を向け、出口に向かって歩き始めると、背を向けたはずの方向から声がかかる
「あんた・・ホントにプリーストかい?」
 どんな顔をしているか想像はついたから、顔を見るでもなくそのままの体勢で、そうですよとだけ答えた。
 あんまり言いたかないけど・・までは耳に入れ、そのまま出口に向かって歩き始める。いまさら無視した程度で、どうなるということも無いだろう。
 ドアを開くと、入退店を告げる鈴がからからと鳴る。気に留めず外に出ると、夏がそろそろ来るであろう光は、一層強く私の体を覆った。見上げると更に眩しく照りつける日差しに、目を細め、手をかざす。
 プリーストって損だな。心底そう思う。
 アサシンやローグがこんな事をしても何も言われないだろうに。歩きながら悶々とそんな事を考えているとため息が出てくる。
 そもそも聖職者なんていうけど、教義的な意味などあってないようなものだ。例え人身売買をしようがプリーストはプリーストだし、そんな事をしていたら、捕まるのはどんな職業でも一緒だ。ただ人を癒したり支援したりするのが得意な職というだけで、神様とか得体の知れないものにまで拘束されるいわれは無い。何より、ただ祈るだけで手に入れた力ではないのだから。純粋に私が努力して得た力のはずなのに、信仰心がどうのと言うのはどうかと思う。
 考えがまとまらずに、初夏の日差しの中を噴水方面に徘徊していると、路店通りが見えてきた。
「あ、タバコ」と、つい声に出た言葉は、路店通りの喧騒の中で立ち消える。考えても仕方ないから路店でも見てまわろうかな。
 欲しい物はタバコくらいで、後は特にはない。何より、ここ最近狩りにもろくに行ってないから、軍資金もつきかけているし。
 ふらふらと道端に店を出す商人たちを見てまわる。活気が凄い。わらわらと耳に入ってくる雑音は、私とは関係なく路店通りを活気で満たす。
 さすが首都なだけはあり、色々な物がある。有名な武具や防具。果ては収集品や食べ物まで。私のいた故郷では考えられない物の多さに、はじめてここに来た時は驚いたりもしたけど、今はそうでもない。当たり前の事で、日常の風景になってしまっていた。
 タバコ、タバコと。
 いつも、十字路少し南の辺りで、路店を出している商人が見つからない。仕方ないかと顔馴染みの商人からの購入はあきらめて路店を巡る。初夏だというのに強く照りつける太陽に嫌気を覚えもするけど、お目当ての物が見つからない以上歩くしかない。
 うんざりしながらも歩き続けた。けど、どこにも置いていないのはどうした事だろう。プロンテラの南端まで来てはみたがどこにも置いていなかった事に辟易すると、取りあえずは諦めて臨時広場へ足を運ぶ事にした。
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by factfinder | 2006-05-01 00:02 |  

乾いたままで。

 夏だ。待ちに待った夏が来た。
 さわざわと風に揺れる花。鼻をくすぐる新緑の匂い。色んなものが綺麗に見えて、愛おしく感じるけど、一番いいのは色かな、って思う。
 向こうの方に見える山の白色とか、あたり一面の緑色。所々に咲く花の紫色や桃色。年中雪が積もっているようなこんな寒い地方にでも、どこからから芽吹いてきて、花や種をつけるこの季節が私はとても好き。花と言ってもあまり大きくもないし、たまに見かける行商人のおじさんが持ってくる花と比べると見栄えは劣るけど、一年にこの時期にだけ、好きな時に見られると思うと、やっぱり好き。
 村から少し離れたいつもの場所で、いつもの様に、あいつが練習してる様子を見学でもしてようかと思って来たんだけど、お目当ての光景が視界には無く、ただ伸び伸びとした主役のいない風景が広がるだけだった。
 がっかりしたけど、まぁ待っていればいつか来るだろうと思い至って、少し小高い丘の上の指定席に腰を下ろした。
さわざわと風が吹く。
 気持ちいいなぁ。あいつ何やってるんだろ。
 そんな事を考えながら仰向けに転がった。ため息がこぼれる。いつもなら居るはずのこの時間にいないって事は、家の手伝いでもさせられてるのかな。
 風が頬を伝い、鼻をくすぐっていく感じが気持ちよくて目を閉じる。おばさんに怒られながらも、めんどくさそうに荷解きの手伝いをするあいつの顔を思い浮かべた。顔がニヤニヤしてくるのが分かったけど、まぁ誰もいないし気にしない事にする。
「何してるんだよ! 」
 不意に声をかけられて、顔を勢いよく上げた。声の主は絶対あいつだ。ニヤニヤしてたの見られたかな、と不安になって、声の主を確認しようとした。けど、その拍子に何かが顔にぶつかる。ぱすっと気の抜けるような音と共にひざの上に転がったパンを見る。
「何で投げるのさー! 」
 あまり状況を確認しもしないでとりあえず怒ったように文句を言ってやった。こそこそ人の顔を覗いたことにも、顔に投げられたパンにも・・私より先にココにいなかった事とか色々頭にきたから。その間に顔を確認してみた・・ら、何故か笑ってる。
「いや、笑ってたからつい」
 そう言うと、さらに笑みを深くして声に出してまで笑い始めた。私どんな顔してたんだろ。不安だけど・・まぁいっか。ポジティブなのか単純なのか、怒っていた事を忘れて、笑顔につられて私も笑ってしまう。
「何してたの?」
 ひとしきり笑い終えた後であいつに聞いてみた。当の本人はいつもの様に準備運動よろしく体を伸ばして・・はおらず、何故かこっちに向かって歩いて来る。私の近くに来るとかがみこんで、ひざに落ちていたパンを拾い上げると私に差し出してきた。
「何って・・。迎えに行ったのに」
 そう、だったのか。ココに来た時がっかりした分、嬉しさが込み上げてきたけど、さっきのようにニヤニヤはせずに顔を背けてこう言った。
「柄にも無い事しないのー」
 そう言ってやると、そんなーとか言い出したから横目で様子を伺う。笑ってるのかがっかりしてるのか分からない様な顔をして、そんなーとかまた言い出す。居場所なくふらふらとするパンを持つ手から、私はパンをふんだくると、どうしたのコレと聞いてみた。
「かーさんが見てるだけじゃアレだから渡してあげろって」何が嬉しいのか、少し笑いながらそう答えると、私の隣に腰を下ろした。「ほんと余計なことするよなー」
「あれ・・私、おばさんに言ったっけ?」いつもながら優しいおばさんに感謝したけど、ふと疑問に思ったことを口に出した。あいつの顔をみて少し首を傾げる「見てるの」
「いや俺も言ってないけど、何でか知ってた」
 まぁ大方察しはつくけどね。
「家に帰ったとき顔に出てたんでしょ」少し含み笑いをしてそうからかうと、地面へ大の字に寝転がった。「私がいて嬉しんだ」
 私はからかったつもりだったのに、あいつは多分出てたんだとは思うけどねとか言い出した。続いて、恥ずかしそうにではなくて、嬉しそうに笑い出す。
 そんなセリフ聞いたほうが恥ずかしくなってくるって。からかってるのか、からかわれてるのか、分からなくなった私は、体をがばっと起こすと、あいつの顔を両手で挟んでやった。ぱちっと小気味のいい音がしたすぐ後に、いてっと文句を言い始めたけど、無視して挟んだまま睨み付ける。
「な、なに?」
 少し居心地の悪そうに目をそらしたりうごうごし始めたのも無視。離してなんかやるもんか。
「だから何だって!」
 この二歳年下のお子様は、私の顔が近くにあるのが嫌なのか、だんだんと抵抗が強くなってきた。
「べつにぃ」
 抵抗が強くなっても無視。ジト目で凝視し続けると観念したように私の方を見てきた。その顔が何だかとってもおかしくて笑いが込み上げてくる。
やっぱり、私は夏が好きだ。
こんな時期でなきゃ、外でこんな風に二人で過ごしていられないから。



 懐かしい夢だな・・。気だるい体をベッドから起こすと、ベッドの横にあるテーブルからタバコとマッチを取り、火をつける。感傷より先に、渇いた喉から出てくる煙をくゆらせ、隣で横になっている誰だかわからないヤツに紫煙を吹き付けた。
「いつまで寝てるの?さっさと起きなよ」
 隣でうなった男は、私に背を向けるよう寝返ると、もう朝かとのたまいはじめた。もう昼間だよと言い返すでもなくベッドから降りると、脱ぎ散らかした服を探しなら下着を身に着ける。ふとさっき見た夢が脳裏を過ぎったが、どんな夢だったかももう忘れてしまっていた。懐かしい夢だった、という感情だけが心を傷つけていく。
「あんた、今日予定あるのか?」
 さっきまでうなりながら横になっていた男が体を起こしていて、そう問いかけてくる。細身の男は眩しそうに私を・・いや窓の外を見つめながらだろう。
「特には無いねぇ」私は細められた男の目に、何故だか急に恥ずかしさを覚え、体を桃色の法衣で隠しながら身につける。「どうして?」
「一緒に狩りに行こうかと思って」
 そう言うと男の方も服を身につけだす。
「いや・・やめとく」私はそう言うと腰のベルトを少しきつめに締め、ベルトを隠すようにその上から白色の布を締めた。「気分じゃない」
「そうか」いつの間にか手早く魔道士然とした服を身につけたその男は、深く考えるでもなくまたなと言い残すと、ドアを開けて外に出て行った。連絡先を聞くでもなし、二度と会う事も無いだろうに、わざわざ、またな、とか言う人間の気が知れない。
 灰皿の上で人知れず紫煙を出し続けていたタバコは根元付近まで灰になっていて、もう吸う気にもならなかったが、私が動くたびにたゆたう煙を眺めていると無性にまたタバコが吸いたくなった。一本20kもするんだから、もう少し真面目に吸えばよかった。
「・・タバコ、買いに行かないとね」
 残り少なくなった新しいタバコの事を思い出し、財布をどこにやったか思い出す。昨日は確かドアの近くに置いたはずだった。
 杖と共に置いていた貴重品類を視界に入れると、不意にまた懐かしさが込み上げてきた。私には使えない短剣が、杖や財布、アクセサリーと共に無造作に置いてある。
 あいつの短剣。
 少し・・故郷に顔を出してみるのもいいかな、と思ったのはその時が初めてだった。
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by factfinder | 2006-05-01 00:01 |