あの日あの時あの場所で?
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乾いたままで。9
「それでね」私は笑いながら続ける「支援が切れたぞって大騒ぎ」
今日初めて組んだ様な人の話をきっかけに、私とその騎士はあれから一時間程会話していた。何杯飲んだか忘れてしまったカクテルのせいか、はじめの不機嫌さは何処かへ行ってしまっていた。手に取ったグラスを傾けると、もう空になってしまっている事に気がついて、同じやつをーと頼んでみたがマスターが見つからない。
「へぇ」騎士も笑いながら「確信犯だった?」と合いの手を入れる。
「いいや」と笑いながら答えると、辺りを見渡す。いつの間にかお客は私達だけになっているみたいで誰もいなくなっていた。テーブル席の方はもう片付けられていて、テーブルの上に椅子が乗せられている。灯りも所々切られているのを見ると、どうも閉店間近みたいだ。
周囲をキョロキョロと見渡していると、近寄ってきた女中さんに声をかけられる。
「そろそろ食堂の方は閉めさせてもらってよろしいでしょうか?」
そういうと頭を下げた女中に「あ、はーい」と私は答えると立てかけていた杖を取る「いくらですー?」と尋ねると、騎士が「俺が出すよ」と言ってきた。
「え?」と呆気に取られたように騎士を見ながら「ありがと」と付け加えた。
「面白かったしね」騎士は女中にゼニーを渡す。いくらだったのか聞こえなかったけど、結構高いカクテルを何杯も飲んだ事に不安を覚える。覚えたが、まいっかと流したのはそれから数秒後の事だった。酔っている事だけは実感できる。
「これからどうする?」ゼニーを払い終わったのか、こちらに近寄ると、座る時に邪魔だったのか、外していた盾を腰につけながらそう聞いてきた。
「んー。宿探しかなー」杖にしがみ付きながらそう答えたが、まともに探せる自信がなかった。立ち上がった拍子に急に酔いがまわってきたのかな。もうこの宿でいっか、などと考えてると。
「そっか。俺さ、ここで部屋をもうとってあるんだけど」そこで区切ると、顔を上げて笑顔で続けた「上でもう少し話さない?酔い覚ましも兼ねてさ」
それを聞いて少し考え込むように俯く。脳裏を過ぎるのは・・。
「・・そうですね」と私は答えた。
部屋までの道程がグラストヘイム2Fと同じくらい難易度の高い行為だと思ったのは、コレが何度目なのだろうか。時々騎士に支えられながら、普段は緩やかだろう階段をふらふらと上がっていく。アスムプティオのある今は、グラストヘイム2Fよりも難易度が高いかもしれなかった。
「大丈夫?」騎士が、よろめく私の腰を支えながら気遣わしげに聞いてくる。
「大丈夫」少しその段で立ち止まって俯いた私に、もう少しだよと騎士は促す。
やっとの事で階段を上りきると、部屋は本当にすぐそこにあったみたいで、かぎを開けるからと手摺りを持たされる。今度は手摺りに支えられながら、1Fのロビーを眺めた。2Fの廊下は、片方が吹き抜けになっていて、出入り口がこの位置からは真正面に見える。丁度出入り口の鍵をかけに来たのか、さっきは姿の見えなかったマスターが食堂の方から歩いてくるところだった。
「さ、こっち」
マスターを眺めていた私は、後ろからかかった騎士の声を聞くと「喉、かわいたなぁ」と呟く。
「わかったわかった」と苦笑いしながら私の腰を支えると、ドアの開いた部屋に促された。
部屋に入ると、先ず目に入ったのが大きな槍だった。次はベッド。小さな丸い机に、椅子がひとつ。あと右手の方にドアがある。
ふらふらと部屋に入ると、少し古そうなベッドに腰を下ろした。見た目より柔らかかったベッドに腰掛けた事で、少しの間平衡感覚がなくなる。
揺れる視界の中で、騎士は盾を腰から外すと「じゃあ、お水貰ってくるから」とドアの外に出て行った。
ぼーっとしているといつの間にか頭が後ろに行き、視線はそれにつれてドアから天井へと流れる。ベッドから足を出したまま横になった私は、まぁこの程度で済んでよかった、と思う事にする。眠くはないが火照った顔が熱くて、冷たいシーツが心地よく、私は顔を埋めた。何をするでもなくごろごろして、時々あーとかうーとか唸っていると「ご機嫌だね」とドアの方から聞こえてきた。声のした方に目をやると、お盆の上に水差しとコップを乗せて、騎士が部屋に戻ってきたようだった。
「はいこれ」と机の上にお盆を置いた後、コップを私に手渡そうと差し出す。けど、受け取らなかった私を見ると、苦笑いしながら寝転がったままの私の手にコップを握らせる。
「気持ち悪い?」
「んー少し」視線を隠すようにコップを持つ手で顔を隠し、少しの間横になったままでいた。
「そうだ、その騎士最後はどうしたの?」椅子に腰掛けた様な音がした後、騎士はさっきの続きを聞いてきた。
記憶をたどりながら体を起こす。横になった時にはだけたのだろう裾を直すとそれに答える。
「・・その少し後に」そう言いながらコップを差し出すと水を注いでくれた「やっぱり先行してモンスターかき集めて気絶してた」
「なんだそれ」と騎士は笑う。その時の事はよく覚えているが、最後の最後までよく分からない人だった。
「自分は逃げた?」
「遠かったから余裕だった」と笑ってそう答えると、貰った水を口に運ぶ前に顔に当てた。少しそのままの格好でいると、ふらついてコップから水がこぼれる。
「あ」と私が言う間に、騎士がタオルを持ってきてくれていた。私に手渡すと、隣に腰掛ける。
私は首筋に零れた水を拭くと「水でよかった」と呟く。
「そうだね」と騎士はそれに答えると「明日までには乾くよ」と私の顔に触れ、拭いたばかりの首筋にキスをした。
今日初めて組んだ様な人の話をきっかけに、私とその騎士はあれから一時間程会話していた。何杯飲んだか忘れてしまったカクテルのせいか、はじめの不機嫌さは何処かへ行ってしまっていた。手に取ったグラスを傾けると、もう空になってしまっている事に気がついて、同じやつをーと頼んでみたがマスターが見つからない。
「へぇ」騎士も笑いながら「確信犯だった?」と合いの手を入れる。
「いいや」と笑いながら答えると、辺りを見渡す。いつの間にかお客は私達だけになっているみたいで誰もいなくなっていた。テーブル席の方はもう片付けられていて、テーブルの上に椅子が乗せられている。灯りも所々切られているのを見ると、どうも閉店間近みたいだ。
周囲をキョロキョロと見渡していると、近寄ってきた女中さんに声をかけられる。
「そろそろ食堂の方は閉めさせてもらってよろしいでしょうか?」
そういうと頭を下げた女中に「あ、はーい」と私は答えると立てかけていた杖を取る「いくらですー?」と尋ねると、騎士が「俺が出すよ」と言ってきた。
「え?」と呆気に取られたように騎士を見ながら「ありがと」と付け加えた。
「面白かったしね」騎士は女中にゼニーを渡す。いくらだったのか聞こえなかったけど、結構高いカクテルを何杯も飲んだ事に不安を覚える。覚えたが、まいっかと流したのはそれから数秒後の事だった。酔っている事だけは実感できる。
「これからどうする?」ゼニーを払い終わったのか、こちらに近寄ると、座る時に邪魔だったのか、外していた盾を腰につけながらそう聞いてきた。
「んー。宿探しかなー」杖にしがみ付きながらそう答えたが、まともに探せる自信がなかった。立ち上がった拍子に急に酔いがまわってきたのかな。もうこの宿でいっか、などと考えてると。
「そっか。俺さ、ここで部屋をもうとってあるんだけど」そこで区切ると、顔を上げて笑顔で続けた「上でもう少し話さない?酔い覚ましも兼ねてさ」
それを聞いて少し考え込むように俯く。脳裏を過ぎるのは・・。
「・・そうですね」と私は答えた。
部屋までの道程がグラストヘイム2Fと同じくらい難易度の高い行為だと思ったのは、コレが何度目なのだろうか。時々騎士に支えられながら、普段は緩やかだろう階段をふらふらと上がっていく。アスムプティオのある今は、グラストヘイム2Fよりも難易度が高いかもしれなかった。
「大丈夫?」騎士が、よろめく私の腰を支えながら気遣わしげに聞いてくる。
「大丈夫」少しその段で立ち止まって俯いた私に、もう少しだよと騎士は促す。
やっとの事で階段を上りきると、部屋は本当にすぐそこにあったみたいで、かぎを開けるからと手摺りを持たされる。今度は手摺りに支えられながら、1Fのロビーを眺めた。2Fの廊下は、片方が吹き抜けになっていて、出入り口がこの位置からは真正面に見える。丁度出入り口の鍵をかけに来たのか、さっきは姿の見えなかったマスターが食堂の方から歩いてくるところだった。
「さ、こっち」
マスターを眺めていた私は、後ろからかかった騎士の声を聞くと「喉、かわいたなぁ」と呟く。
「わかったわかった」と苦笑いしながら私の腰を支えると、ドアの開いた部屋に促された。
部屋に入ると、先ず目に入ったのが大きな槍だった。次はベッド。小さな丸い机に、椅子がひとつ。あと右手の方にドアがある。
ふらふらと部屋に入ると、少し古そうなベッドに腰を下ろした。見た目より柔らかかったベッドに腰掛けた事で、少しの間平衡感覚がなくなる。
揺れる視界の中で、騎士は盾を腰から外すと「じゃあ、お水貰ってくるから」とドアの外に出て行った。
ぼーっとしているといつの間にか頭が後ろに行き、視線はそれにつれてドアから天井へと流れる。ベッドから足を出したまま横になった私は、まぁこの程度で済んでよかった、と思う事にする。眠くはないが火照った顔が熱くて、冷たいシーツが心地よく、私は顔を埋めた。何をするでもなくごろごろして、時々あーとかうーとか唸っていると「ご機嫌だね」とドアの方から聞こえてきた。声のした方に目をやると、お盆の上に水差しとコップを乗せて、騎士が部屋に戻ってきたようだった。
「はいこれ」と机の上にお盆を置いた後、コップを私に手渡そうと差し出す。けど、受け取らなかった私を見ると、苦笑いしながら寝転がったままの私の手にコップを握らせる。
「気持ち悪い?」
「んー少し」視線を隠すようにコップを持つ手で顔を隠し、少しの間横になったままでいた。
「そうだ、その騎士最後はどうしたの?」椅子に腰掛けた様な音がした後、騎士はさっきの続きを聞いてきた。
記憶をたどりながら体を起こす。横になった時にはだけたのだろう裾を直すとそれに答える。
「・・その少し後に」そう言いながらコップを差し出すと水を注いでくれた「やっぱり先行してモンスターかき集めて気絶してた」
「なんだそれ」と騎士は笑う。その時の事はよく覚えているが、最後の最後までよく分からない人だった。
「自分は逃げた?」
「遠かったから余裕だった」と笑ってそう答えると、貰った水を口に運ぶ前に顔に当てた。少しそのままの格好でいると、ふらついてコップから水がこぼれる。
「あ」と私が言う間に、騎士がタオルを持ってきてくれていた。私に手渡すと、隣に腰掛ける。
私は首筋に零れた水を拭くと「水でよかった」と呟く。
「そうだね」と騎士はそれに答えると「明日までには乾くよ」と私の顔に触れ、拭いたばかりの首筋にキスをした。
by factfinder
| 2006-05-01 00:09
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